キャリア開発セミナー33:経験の場づくり
さて次は、育成の観点から考えてみましょう。若年者を育てていく際に大切なことは、「経験させること」であるということは、皆さんにご賛同いただけるものと思います。仕事を覚える方法として、OJTによるもの、研修などのOFF JTによるもの、書籍などの自主学習によるものの3つを考えた場合、70%、20%、10%の比率で圧倒的にOJTが仕事習得には有効であるとの調査結果が出ているそうです。(松尾睦教授のデータより)
要するに、「仕事の報酬は仕事である」ということです。ただ、やみくもにOJTで経験させればよいかというと、そこには賢明な経験の場を作る工夫も必要だとのことを松尾教授は示しています。
動物には「臨界期」というものがあり、例えばカモやアヒルなどの離巣性の鳥類が孵化した直後に、初めて会った対象を親と認識して接近したり後追い行動を示すことが明らかになったのですが、これは観察を続けるとこの行動は孵化直後36時間前後しか生起しないそうです。この36時間が臨界期となります。
人間も、言語の習得などは臨界期のような区切りもあるということですが、この考えで若年者への仕事を与える一種の臨界期的なものを考えると、まず30歳前後で「質の高い経験を積み土台を作ること」が大切と言われています。仕事を与える側は、具体的指示は最小限にし、課題提示の場面では丁寧に説明し、あとは側面支援に徹することで、対象者本人が自らの思考行動で課題を成しえたと実感できるようにすることが大切であるとしています。
PTGという言葉があります。これは、post traumatic growth の略で、トラウマとなるような経験の後に、人間として成長を遂げるというものです。これは昔から言われていることで、「艱難汝を玉にす」という言葉があるように、困難や苦しい状況を乗り越えることで人間的成長を遂げることができる、の意ですが、現代はIT技術の進歩や分業化の進展、また勤務地や勤務時間の柔軟化により、若年者にしてみれば上司や周囲がどんな仕事をしているか分かりにくく、今までのように五感で仕入れることのできた情報が少ないまま大きな課題に向かわなければならないことになります。
管理者としては、経験の場を作る際にも、そのような環境変化を十分に考慮しながら、その人にとっての適切な時期に丁寧な課題提示をしたいものです。挑戦しようと思える土台は、上司に対する「心理的安心」ですから。(続く)
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