キャリア開発セミナー27:発達心理学的な考え方(その1)

 個人視点のキャリア開発の最後のテーマとして、発達心学的な考え方をシェアしたいと思います。

 発達心理学とは、人間の誕生から死に至るまでの心身の変化を研究する心理学であり、1980年代頃までは、その過程を「成長」に注目して捉えていました。フロイトやピアジェに代表されるように、発達理論も青年期が最終段階でとなっていて、乳幼児期から青年期までが主な対象となっている一方、壮年期から高齢期は「発達」というよりは「能力の低下」という見方がなされ、あまり注目されていませんでした。けれども近年は、生涯発達という視点で、人間の誕生から死までをその対象として考えるようになってきました。

 その一つの象徴として、「流動性知能」と「結晶性知能」という2種類の知能の考え方があります。心理学者キャッテルによって提唱された理論です。

 流動性知能とは、新しい場面への適応を必要とする際に働く能力で、記憶・計算・図形・推理など空間能力、速度に関する知能のことです。20歳代前半にピークが訪れ、徐々に低下していくといわれています。一方結晶性知能とは、過去の学習経験を高度に適用して得られた判断力や習慣であり、流動性知能を基盤とするけれども、経験の機会などの環境因子や文化因子に強く影響されます。主に言語能力や知識に関する知能であり、能力のピークに達するのは60歳代であると言われています。

 加齢に伴い、確かに記憶や計算能力、処理スピードは低下しますが、高齢化は能力全てが低下して生物としての衰退過程を歩むというのではなく、結晶性知能のように高齢期まで伸びる能力もあることを理解するとともに、上昇や下降という見方ではなく、生涯を通じた様々な「変化そのもの」を発達と見做していく捉え方をしているのが発達心理学です。

 

 発達心理学の先駆けとしては、ユングの「人生の正午」という中年の危機についての言葉が有名です。

 ちょうど40歳頃になると、身体や能力などいままで順調に「できた」ことが、できなくなってきたり時間がかかったりしてきます。例えば視力にしても、早い人は老眼の兆候が出てきたりします。時計のように午前中は上り調子で上がってくるものの、午後になると下る感じなる、40歳はちょうど正午のような感じだというものです。午前は、東側を向いて太陽が昇るのを見ていたとすると、そのまま角度を変えないで太陽を見ていると自分の身体がひっくり返ってしまいますから、午後は西を向いて太陽を見るわけですが、そうすると今まで気が付かなかった自分の影の部分が見えてきて、人間的な成熟度が増してくる、そんなイメージを表す言葉です。その正午で正しく方向転換をしないと、成熟や収穫のステージに入ることができないのです。

 フロイトやピアジェが精神機能や知能に焦点を当てた発達論を展開する一方で、このユングを始め、エリクソンも「生涯発達心理学」という社会生活の視点を採りいれて人間発達を捉えた一人でした。

 エリクソンは、人間の生涯を8つの段階に分け、各段階での「課題」を示しました。そしてその「課題」を克服できれば健康的に生きられ、できなければ挫折を感じたり希望を失ったりして、次の段階にうまく進むことができないと説きます。(続く)

タラントディスカバリーラボ

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