キャリア開発セミナー28:発達心理学的な考え方(その2)
エリクソンは、人間の生涯を8つの段階に分け、各段階での「課題」を示しました。そしてその「課題」を克服できれば健康的に生きられ、できなければ挫折を感じたり希望を失ったりして、次の段階にうまく進むことができないと説きます。
この中で特に重要と思われる点を2点取りあげます。
一つは青年期における課題の「自我同一性」と「同一性の拡散」です。これはアイデンティティの確立を問うているものです。アイデンティティとは、小誌のプロローグのキャリアのオーナーシシップの項でもお話ししたように、自分でも他者からも、「自分とはこういう人間だ」という認知が一致してなされたときに確立するもので、エリクソンはそれが青年期の一番の課題であると提唱したのでした。
(変化のあまりにも激しい現代では、アイデンティティは、青年期に限らず、その後も何度も作り替えられていくことが十分にあると言われています。)
アイデンティティが確立していないと、社会生活に適応していく中で、環境に振り回され、自分自身が見えなくなってしまいます。キャリアの世界でいえばキャリア・アンカーに相当するものです。そういう意味でも、自己理解を深めることは大切であるといえます。
二つ目は、壮年期の「生殖性(世代性)」と「停滞」です。世代性は英語では generativityと訳されますが、自分の成長とか利益ばかりでなく、自分の子どもはもちろんのこと、今後の社会を担う若い世代の人たちに、いかに自分が経験して培ってきた大切なものを伝えていくか、という視点です。一種のバトンをいかにうまく渡していくのか、というバトンリレーの世界です。バトン渡しは、早すぎてもいけない、保持しすぎてもいけない、相手の能力やスピードに合わせて丁寧に渡してあげることが大切ですね。この視点をもって壮年期を過ごせるかどうか、最終の高齢期での充実にも繋がっていきます。
発達心理学でもう一つ、レビンソンの「人生の四季」についてお話ししたいと思います。レビンソンは人生を四季になぞらえ、季節が変わる過渡期に主に危機が訪れる、という理論を提唱しました。
児童期・青年期から成人期になる17歳~22歳に初めての過渡期を迎えます。その後、人生半ばの過渡期(40歳~45歳)、50歳の過渡期(50歳~55歳)、老年への過渡期(60歳~65歳)があるとしています。
現代の社会生活・年代と必ずしもマッチしていないとも思いますが、人生ステージの大きな変化がある節目の時期に、解決していくべき自分の人生の課題があるという意味では、エリクソンの理論と通じるものがあります。
「人生における「物事の変化」には、必ず出発点があり、混乱した期間を経て到達点に達する」といったのはウィリアム・ブリッジスです。
ブリッジスは、何かが終わって次が始まるまでの時間を「ニュートラル・ゾーン」と呼び、その期間は、終わろうとしている現在の環境に足を突っ込みながら、一方でまだ地に足が付いていない新しい世界への期待と不安を感じる、まるで嵐のような世界であると言っていて、そのニュートラル・ゾーンは人によりまた物事により、数年かかることも稀ではないと言っています。但し、そのニュートラル・ゾーンでは正しく悩み考え行動することが大切です。うわべだけの新しい生活やステージが始まっても、前のステージを正しく終わらせて、自身の内面が正しく変わる準備ができていないと、いずれは新しい環境に不適応を起こしてしまう、としています。
人生において変化はつきものです。でも節目において、変えられるものは変える勇気を、変えられないものには忍耐する力を、変えられるか変えられないかわからない場合には、それを判断する知恵を持てるよう成長していきたいです。(続く)
0コメント