キャリア開発セミナー13:学習すること
「学習」とは、個人視点のキャリア開発において、一番大事であるといっても過言ではないテーマです。プロローグの中の「なぜ今自律的なキャリア開発なのか」「キャリアのオーナーシップ」の項でも述べましたように、社会・経済の変化が非常に速い現代においては、現在所持している能力や知識はあっという間に陳腐化してしまい、次から次へ新しい技術が生まれてきます。そのため、常にアンテナを張り巡らせてビジネスや社会のトレンドを把握するとともに、一つよりは二つ、三つと他者よりも優れた技能や専門知識を身につけられるように学習する姿勢を持つことが大切です。
中原淳先生は、『働く大人のための学びの教科書』の中で、「なぜ僕たちは学び続けなければならないのか」という問いに対し、「学ばなければ大人でいられないから」という解答をしています。
社会の変化が基本的に無かったような時代には、子どもが大人になると、その大人は社会の中でずっと大人でいられました。年齢によるステイタスも与えられ、過去からの経験と知識が尊重される社会です。
一方、現代のような進化のスピードが速い社会では、子どもは年齢とともに形の上で大人になるのですが、そこで成長しないと、社会自体が変化して進歩をしていくので、取り残されてしまいます。ですから、大人になっても大人であり続けるために学習する必要があるのです。
もちろん、ビジネスは別として、人間の価値は、Can(=~できる)ではなく、Be(=その存在自体)でも表されるものです。ただ、社会自体のインフラが頻繁に塗り替えられていく時代にあっては、最低限の適応は無視できません。具体例を挙げれば、いくら電話の必要性を感じないとは言っても、現代社会でスマホ無くして通常の生活は成り立ちませんね。情報収集も支払いも、スマホはこの10年で社会を様変わりさせました。
さて「学習」を考える際に、「出来ない社員の定義」という話をしたいと思います。以下を見てください。
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(1)主体性の無い人
(2)仮説を持たない人
(3)やった後に検証しない人
(4)仮説検証のサイクルを回しても、抽象化・教訓化することができない人
(5)自分が変わらなければいけないと思っても自分を変えることができない人
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まず(1)は、皆さんも当然のことと感じるでしょう。「言われたことだけしかやらない=考えていない」ということです。キャリア論でいえば、キャリアのオーナーシップを他者に譲ってしまっている人になりますね。
(2)と(3)の仮説・検証は、よく「PDCAサイクルを回す」という表現で用いられます。「もっと~(良い方向)にならないか」と考え、仮説を立てて実行し、その結果から仮説が正しかったかどうか検証するプロセスです。
この仮説・検証サイクルは、仕事だけではなくスポーツ競技でも常に回していると考えます。相手のある競技中ももちろんのこと、練習中もどうしたら自分の技量が伸びるのか、体力が増えるのか、考えながらやるのが成長につながるからです。コーチが言ったことをただ実践しているだけでは、本番で力を発揮することができないでしょう。相手は、常に教科書通りには攻撃してこないからです。
(4)の「抽象化」というのは、一種の帰納法的判断ともいえると思います。いくつかの原因と結果が示されたとき、それらの事象に共通する相関を捉えることで、物事を理論化していきます。「教訓化」ともいえるでしょう。あるいは、「知識を知恵に変える」といってもいいと思います。この作業ができるかどうかで、仕事の効率性向上や広がりの可能性が大きく違ってきます。
最後の(5)ですが、最終的にはこの(5)が協働作業する上で一番重要なことかと私は思います。
過去の慣習や成功体験は、その人の判断基準に大きな影響を与えます。Eight Silly Monkeysでもそんな一場面をご紹介しました。また動物もそうでしょうが、人間は変化に対して基本的に恐れを持ちます。いままで上手くいっていたことが、方法を変えることで上手くいかなくなることを、極力避けたいと思うのは当然です。しかしながら、学習して現状のやり方が好ましくない、あるいは間違っていると気づいたとき、たとえ変えるには労がかかり試行錯誤もしなければならない、と分かっていても、それを乗り越えて自分を変える勇気を持たなければ、自分だけ取り残されてしまいます。特に影響力の強い上位者自身に柔軟に変えていく腰の軽さが無いと、その組織はガラパゴス化してしまうでしょう。必要に応じてアンラーニング(=学習棄却)することが大切なのです。そして変化対応には、勇気と覚悟が必要なのだろうと思います。(続く)
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