キャリア開発セミナー11:自己理解と他者理解
私たちは社会生活をする上で、他者との協働作業は欠かせません。人間は集団で物事を成しえることにより、他の動物よりも繁栄しDNAを残してきているのですが、前述の「社会脳仮説」でもお話ししましたように、自分と同様に独自の思考・感情を持つ他者の心を感じることが大切であり、その能力を発展させてきたわけです。
その点で「他者理解」が必要になってくるのですが、私の経験では、他者理解のためには「自己理解」が必要で、自己理解できるところまでしか他者を理解することはできない、と考えています。
「自分がされて嫌なことは他者にはしてはいけない」と親から教えられえて育った方も多いと思います。もちろんこれは優しさの基本型ですね。しかしながら、「自分が大丈夫なことは他者も大丈夫である」という逆の命題は成り立つのでしょうか。自分が指示された仕事は、どんなにきつくても納期通りにやろうとするタイプもいれば、出来ない理由を考えて無理をしないタイプもいるでしょう。例えば前者のようなタイプが上司、後者のようなタイプが部下だったとすると、上司からすれば、「やる気の無さを屁理屈で固めている部下」と映ってしまうかもしれません。その上司からすれば、「徹夜してでも仕上げるのがプロなんだ、指示されたらツベコベ言わずやるのが当然だ」というのが正論だからです。でも、部下には部下の生活や仕事のやり方があるのです。「自分が大丈夫でも、他者は大丈夫でないかもしれない」というところまで自分の思考を掘り下げられるかどうか、それが自己理解、他者理解の大切なところです。
心理学で「誤信念課題」というテーマがあります。サリーとアンのテストとも呼ばれています。
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ここに「かご」と「箱」があります。
サリーはアンが見ているところで、ビー玉をかごに入れました。
サリーがお散歩に出かけた後、アンはかごからビー玉をとりだして、箱に入れました。
戻ってきたサリーは、ビー玉で遊ぼうとします。
さて、サリーはかごと箱のどちらを見るでしょうか。
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(図15)誤信念課題
お分かりの通り、「サリーはかごを見る」が正解なのですが、この他者の心を考えるという「心の理論」を持てるようになるのは、4歳児くらいからだそうです。3歳児くらいまでは、アンがかごから箱へ移した行為をサリーは見ていない、という事実を自分だけが知っていることについて客観視できないのです。
他者理解は、他者の動機や価値観を知ることによって思考の癖を掴むことといえますが、それはすなわち、自分自身の動機や価値観をしっかり自己理解することによって掴むことができるようになるのだと思います。「他者理解は自己理解から」です。(続く)
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