キャリア開発セミナー38:自己動機づけ(モチベーション)(その2)

欲求アプローチとは、人間は多種多様な欲求を持っていて、主にそれらによって動機付けが規定されるという考え方です。「欲求が人を行動に駆り立てる一種のエネルギーになる」という考え方は、極めて素朴で腑に落ちるものです。

但し、心の問題を科学で解明しようとする現在の心理学の立場からすると、欲求を具体的に表すことは難しいので、現在では他の2つのアプローチと比べると傍流のようです。

欲求アプローチで最も有名な理論が、マズローの欲求段階説です。

マズローは、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求というように欲求の段階を区別しただけではなく、低次の欲求が満たされて初めてそれよりも一つ高次の欲求が機能するというメカニズムを想定しました。また最高次の「自己実現の欲求」のみを、各人の可能性を最大限に発揮させようとする「成長欲求」として描く一方で、他の欲求を剥奪状態による不満足によって行動が生起する「欠乏欲求」と区別しました。

マズローは、「自己実現」を達成している人の経験を「至高体験」と命名し、これを自己と状況とが一体化し、自分を忘れて何かに没頭している状態であると言いました。これは、後述のチクセントミハイが提唱した「フロー状態」と同じ概念と言っていいと思います。

また、マズロー理論の進化版として、アルダーファのERG理論というものがあります。「生存」(existence)、「関係」(relatedness)、「成長」(growth) の頭文字をとっていますが、欲求を階層で捉えるのではなく、同時に作動することがあるとした点で、現在の日常生活の実感には近いものといえるでしょう。

さらに、近年では欲求アプローチの代表として考えられているのが、デシとライアンによる「自己決定理論」です。

生来人間は、以下3つの自律的要素を持っているという考えに立っています。

(1)人間は、能力を発揮したいという「有能感」を持っている

(2)自分の意思で自律的に自分の行動を選 択したいという「自律性」を持っている

(3)人々と関係を持ちたいという「関係性」を持っている

目に見えない「心」を科学的に捉えようと、心理学者は「意識」に着目して研究してきましたが、その後1960年代は、「行動主義」という目に見える行動を中心に捉えて心を捉えようとする考え方が主流となりました。簡単に言えば、外部からの刺激に反応する「学習」という概念です。

でも人間は、外部からの刺激が無くては自発的に動かない、というわけではありません。内発的動機付け、すなわち自ら考え行動することに欲求を持っているのです。ヘッブの「感覚遮断の実験」、ハーローの「アカゲザルの実験」などでも証明されていますね。(以下説明あり)

そして、内発的動機付けこそが、本人の成長や高いパフォーマンスを生む原動力となります。

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・感覚遮断の実験

この実験の被験者は、目隠しをされ、耳栓をつけ、手には筒をはめて物を触ることができないようにされます。食事とトイレ以外は柔らかいベッドの上で寝ていることしかできない状況に置かれ、視覚・聴覚・触覚刺激の入力を極力制限されます。でも食事も部屋の温度などの物理的環境は整えられています。

こうした状態が2、3日続くと思考に乱れが生じてまとまらなくなったり、物をきちんと考えることができなくなり、また身体的にも違和感などを訴えるようになります。

さらに感覚遮断が続くと、人によっては幻覚が生じたり、妄想的な考えが浮かんでくることもあります。

この実験から、人が正常な心理状態や認知機能を維持し、心身共に健やかであるためにはストレスがまったくないことも良くはなく、適度な刺激にさらされること、そして外界からの刺激に反応して自ら現実世界に働きかけ、関わっていくことが必要であることが分かったのです。

・ハーローのアカゲザルの実験

ハリー・ハーローが20世紀半ばに行った実験があります。

アカゲザルの檻の中に、ちょっとした仕掛けを置いて、サルたちの問題解決能力を探ろうとしました。

サルたちは何も強制されていないのにもかかわらず、熱心にその仕掛けを何度となくやりはじめたのです。2週間ぐらいたつと、更にレベルを上げて仕掛けを解くスピードが速くなりました。

誰もそのやり方をお猿に教えたわけでありません。これは、食欲、性欲といった生理的な要因でもなく、周囲から与えられる報酬や罰などによる動機づけでもない、別の要因が関係している、と考えられました。

ハーローは、課題に取り組むこと自体が内発的報酬に当たるという、いわば第3の動機づけ(内発的動機付け)がサルに備わっていることを発見したのです。

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外発動機と内発動機の関係を考えたのが、自己決定理論です。

一般的に「外発的動機付け」というと、「主体性が無くて悪いもの」のように考えられがちですが、一口に言っても外発動機にもレベルがあります。デシとライアンは、ある行動がどれくらい自律的に生じているかによって、4つの自己調整の段階に分けて考えました。

私たちのやる気を引き起こす動機付けは、自分が決めた程度(自己決定)が大きいほど大きくなります。

また、この自己決定理論で、「アンダーマイニング効果」を説明することもできます。アンダーマイニング効果とは、内発的動機づけの状態の人に外発的動機づけを施してしまうことで、内発的動機づけが阻害されるとする理論です。例えば、楽しくて絵を描いていた幼児たちが、絵を描く見返りとしてアメなどの報酬をもらうようになると、自律性が低下して、報酬がなければ絵を描かない、といった心理に変わってしまうことです。

逆に言えば、「自律性」を損なわず、「有能さ」や「関係性」を高める外的報酬(例えば褒め言葉)を与えることができれば、アンダーマイニング効果は発生しません。(続く)

タラントディスカバリーラボ

人それぞれの「心の利き手」に沿ったキャリア支援を目指します

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