キャリア開発セミナー24:ポジティブ心理学的な考え方(その2)

 セリグマン博士はまた、「学習性無力感」という概念を提唱してことでも有名です。学習性無力感」とは、抵抗することも回避することも困難なストレスに長期間さらされ続けると、そうした不快な状況下から逃れようとする自発的な行動すら起こらなくなる現象のことをいいます。一種の諦めですね。

 セリグマン博士は、ゲージに犬を入れて足元に電流を流す実験をしました。一つのゲージの犬は、電流が流れても自ら動けば電流を避けられるような環境にしたのですが、もう一つのゲージの犬は、足元を固定されて電流を避けならない仕組みにしたのです。

 結果は、動ける環境の犬は、電流が流れると自ら電流を回避しようと能動的に動くのですが、動けない環境の犬は、最初のうちは逃げようとしても逃げられない現実を悟ると、電流が流れてもそれをじっと受け続けるようになってしまいました。その後足枷をはずして物理的に逃げられるようにしても、電流を避けようとはしなくなってしまったのです。

これを企業組織に当てはめてみましょう。

ある部下が一生懸命考え行動し、もっと職場を良くしようと思い改善提案したとしても、上司がその提案に耳を傾けなかったらどうなるでしょうか。1回だけならまだしも、回数が重なるほどに、その部下は「どうせ自分が言っても聞いてくれない。自分のことなど考えてくれていない。」という気持ちになり、最終的には提案をしなくなってしまうでしょう。一生懸命考えること自体が、無駄なことと感じてしまうからです。自己効力感を失い、無力感を学習してしまうのです。その結果、その組織は、「言われたことだけやればいい」という受け身人間だけを育てる組織になってしまうのです。上司と対立することは相当なストレスになりますから、自分の生き方や正義を貫くことが曲げられない場合は別としても、誰も自分の心身を病んでまで対立をすることはしたくないですね。レンガ積み職人のたとえ話で出てくる最初の職人のように、お金のために機械的に仕事をする、というスタンスに変わってしまうのです。

 私たちは、学習性無力感を一度学習してしまっても、それを色々な手段で回避できるよう考え、間違った学習を棄却(=アンラーニング)するように思考を変えていくことが大切です。PERMAのAである小さい自己効力感を積み上げながら、ポジティブに物事を考え(P)、不要な雑事に惑わされず役割に没頭できる機会(E)を見出し、信頼できる人間関係の中で(R)、自分の与えられたミッション(M)を考えながら歩むことができるのです。

 ポジティブ心理学でもう一つご紹介したいことがあります。慶応大学の前野隆司先生が『幸せのメカニズム』という著書の中で、「人を幸せにする人は、自分も幸せな人である。自分が幸せになりたかったら、他者を幸せにすること」を述べておられます。それは、人間の共同社会生活の歴史が証明(DNA刻み込み)しているのだそうです。非常に奥深い言葉だと感じます。(続く)

タラントディスカバリーラボ

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